渚のさむらひ 三人ヲトメ
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


        




 さあて、種明かしですが。
 まずはの…どこまで溯って始めましょうかねぇ。(こらこら)



コトの起こりと言いますか、
騒動自体の始まり、幕開けはといえば。

 昨晩、八百萬屋に…いやさ、
 片山五郎兵衛へ掛かって来た、
 一本の電話が“皮切り”に当たるのだろうか。

最寄りの女学園が長期の休みだと
お客の回転も微妙にゆるやかな甘味処も、
夏休みも終盤とあって、
そろそろ新学期に向けての準備か、
通って来る顔触れが増えても来る頃合いで。
制服姿じゃあないけれど、
お行儀のよさや品のいい朗らかさから、
ああ女学園の子だなというのがありあり判る顔触れから、

 『あのあの、
  ひなげしさん…林田さんは おいでじゃないんですか?』

おずおずと、もしくはわくわくと そうと訊かれ、
いや済まぬ、今日から旅行に出掛けておってなと、
今日1日だけで、一体 何人へと答えただろか。

 “人気者だの、ヘイさんは。”

夕刻には のれんを引っ込め、アルバイトの皆さんも返しの、
食器や鍋など、細かいものだらけの洗い物を終え、
さてと見上げた時計は、宵とはいえ まだ一桁の時間帯をさしている。
いつもなら、平八が無邪気な声で“お腹が空いた”というのを口実に、
早く母屋へ戻っておいでと呼びに来る頃合いだが、
今日からしばらくは、五郎兵衛一人だけだから。
コンビニで買って来ておいた弁当を厨房のレンジで温め、
その ほんの数分の間に、
冷蔵庫から取り出した缶ビールを開けようと手に取ったところへ、

 「お?」

エプロンのポケットから、不意に自己主張をしだしたのが携帯電話。
かわいらしい着メロに、おやと口許がほころび、
何だ何だ まだ初日だというに、もうホームシックかのと、
メールじゃあない、通話の電話をかけて来た、
旅行中の…同居人で許婚者のお嬢さんの朗らかなお声を
こちらこそ嬉しそうに期待して、
大きな手へ小さなモバイルツールを取り出した、
五郎兵衛殿だった……のだが




     ◇◇◇



思えば、
前世という破天荒な体験を思い出したのは、ほんのつい最近のこと、
それぞれに育ちのいいお嬢様たちだっていうのに。
大好きなお人らへ毎度毎度しょっぱいお顔をされつつも、
こういうことへ ついついアンテナが向いてしまうのは、
暇と好奇心を持て余しているから、なのかもしれない。
例えば、予定があったらそっちへ気持ちも集中してしまうもの。
それが何より楽しみなイベントだったら言うに及ばずで、
そうじゃあないから、
ひらりんと眼前を躍った何かへ、
仔猫みたいに にゃにゃっと飛びついてしまいやすいのであって。

 『だからって、
  放ったらかされてることへの憤懣とかじゃあないんですからね。』
 『………。(頷、そうそう)』
 『何にでも関心が向いちゃうお年頃なんですよ〜だ。』

ちょっと白々しくないかそれと、
頼もしくもお素敵な保護者様がたが、
苦笑なり微笑なり、それぞれにやっぱり
しょっぱそうに笑っておいでだった言い訳はともかくとして。

  警察関係者が公けの場で聞けたのは翌日のこととなる、
  正式な事情聴取のその前に。

例によって、まだ未成年の女子高生なのでというご配慮と、それから。
いかにも犯罪と戦ってます系の恐持ての大人たちに取り囲まれて、
咄嗟の速やか、且つ、ナチュラルに、

 『わたしたちの立ちあげた、
  短期集中FM局が警察無線と混信していたなんて
  全くの全然 気がつきませんでした。』

 『………。(頷、頷・そうそう)』

 『取材を兼ねて偶然お散歩していたら
  こんな場に出くわして、もうもう怖かったですう。』

などなどと。
肩寄せ合って、細い指を組み、
目許を潤ませまでしてという小芝居やらかして。
現地警察のお歴々を始めとする、
初見の関係者各位をあっさり同情させたため。
(笑)
今宵は帰ってよろしいと言われたそのまんま、
お宿へと戻っての、まずはとの口裏合わせ、
もとえ…先に事情が聞けた保護者様たちへの“説明”によれば、

 「思い出したんですよ、そういう取引の仕方もあったって。」
 「くうがダシに使われかけたアレだ。」

   「はい?」×3

それこそ気が急いてのことだろうが、
勢い良く、しかも手短に告げられたヒントだけでは。
哀しいかな、寄る年波で少々反射が鈍くなっておいでか、
いやいや、社会人には毎日が戦場なので、
一昨日の晩ご飯のメニューさえ、あっと言う間に忘却の彼方なのだということか。
おひげの警部補殿も、眼鏡の校医のせんせえも、
甘味処のごっついマスターさんも、
こんなに短い言われようではピンと来なかったらしいのへ、

 「ほら、去年の暮れ近くに、学園の傍で捕物騒ぎになったでしょう?」

浜辺という現場から、
逗留先の離れ家へと戻ったそのまま、皆様へ冷たい麦茶をとお出ししつつ、
白百合さんが もちょっと丁寧な詳細を付け足し始める。
備え付けの冷蔵庫から取り出したクーラーポットに満たされてあったの、
涼やかな意匠のガラスの茶器へとそそぎ分け、

 確か佐伯さんが応援で加わっていた、麻薬の取引に関わってる一味の一斉捜索。
 あの時に保護したメインクーンのくうちゃんに、
 ややこしい発信器を付けてたじゃないですかあの連中。

 「…あ。」

やっとのこと、話が通じたおじさまたちだという手ごたえを得て、
えへへぇとお顔を見合わせた、
いづれも可憐な、だがだがお花のあだ名がぶっ飛ぶほど、
お元気でお転婆なお嬢様たちであり。


 そう。
 切っ掛けは、怪談もどきの噂話だったのだけれど。
 それがまさか、
 ここまでの騒ぎに発展しようとは、
 彼女らだって思っていなかったのだ……。






  ◇ 回想・その1 ◇


  当初はあのね? 怪しい噂話を聞いて、
  ヘイさんがオカルト辛みの話は苦手だなぁなんて言い出したんで、
  そんな良からぬ悪さをしている犯人をとっととあぶり出し、
  即刻やめさせてやろうなんて方向のノリだったんですよ。


いいお湯を浴びて、おいしい海の幸が一杯の晩ご飯をいただいて。
蚊帳を吊ってもらった広間で、海や満天の星を眺めていたら、

 「あの明かりって…。」
 「漁火ってやつじゃありませんか?」
 「イカの漁の時期じゃない。」
 「そうですよ、それに此処いらで漁れるのは、アイナメやアジです。」

晩ご飯にお造りが出てたじゃないですか。
あ・そっか。

 「じゃあじゃあ、蛍イカみたいな生き物の光とか?」
 「こうまで遠くまで見えますかね。あ、でも消えた。」
 「…また点いた?」

間がいいのか悪いのか、ちょうど月が雲に隠れてしまっての薄曇り。
なかなかお顔を出さなくなり、
他には何にも見えない、闇だまりみたいな海になってたから。
それでの余計に、そんな点滅が気になったようで。

 「なぁんか…怪しくない?」
 「うん。何かの信号っぽいんですよね、あの点滅。」

わたしの知ってる限りの、
正式などれかってのには一向に当てはまんンないようですが、
それでも自然天然の何かの点滅にしては不自然だ。

 「早いところの拍子が早すぎます。」
 「…そういうもんなんだ。」

晩の真っ暗な海の上に見えた灯火。
個人の釣り舟かもしれないよ?
え〜、ぶつからないような信号灯を灯すのは
クルーザーより大きいクラスからじゃなかったかなぁ。
なぞと、七郎次と平八が話していたのだが、そんな彼女らの傍らで、

 「…っ。」

唐突に何かしら思いついたらしい久蔵がいきなり立ち上がり。
微妙に上背があったため、蚊帳の縁に頭をぶつけかけ、
危うくコケるかという勢いだったの、
両側から二人が支えて受け止めたところが、

 「くうがダシに使われかけた取り引き。」

そんな言いようをする彼女だったのへ、
え?と小首を傾げた、あとの二人だったのもつかの間、

 「あ。」
 「そっか、そうだそういうことだったんだ。」

さすがはお若く、反射も早い。

 そういう組織の麻薬の取引に、小道具として使われかかった仔猫。
 実際に渡したかったのは、首輪に埋め込まれてたチップで、
 それが放つ特殊な信号を拾うことで、
 人と人との 手から手へではない、
 例えば海に流した荷が発する信号を追跡して、
 まんまと受け取るとかいう姑息な手段で、
 大量の非合法物資の取引をこなしていた連中を知っている。

  ―― もしかして、その方法での荷を回収している船なのかも?
     そしてそして、
     そんな現場に人を寄せたくなくての、
     どこか不器用な“怪談”だったとしたら?

彼女が言わんとしていることがあっさり判ったと同時、
昼間のうちに引っ掛かってた怪談もどきもするすると思い出され。
素早くコトの全貌が割り出せた、
さすが3人いるのは伊達じゃあないお嬢様たちだったというわけで。




     ◇◇◇



晩の真っ暗な海の上。
この離れ家にいたから、この角度だったから見えた海上の灯火は、
逆にいや、誰にも見つかりゃしないでいた“これまで”という保証あっての
油断しまくりだったのかも。

 ところが、夏になったら浜に来るというお立場の人がいて、
 その人たちには気づかれてもいて。

ただ、その方々にして見れば、
此処には夏しか居ない自分らが、
果たして騒ぎを起こしてもいいものか。
ちゃっちゃと手早く片付けばいいけれど、
強盗事件や殺人事件と違い、
詐欺や違法取引なんていう“企みがらみ”の犯罪は、
警察の方でももっと大きなヤマに育ってから重い罪として引っ張る場合もあると聞く。
いい具合に育つまではと、小さな被害を見て見ぬ振りされたら?
一番困るのは直接怖い想いをする人たちだってのに、
そういう人たちが後回しにされる事態になったら何にもならぬ。

 それに

第一、そっちの筋の人らの企みだったなら、
直接かかわった人たちは法的な罰を受けたとしても
関係者らが“よくも告げ口しやったな”とばかりの報復を
よそでこそりと構えないとも限らない。
土地によっちゃあ、
興業主としてそういう関係筋とも接触がなくはないような生業の皆様なので、
そこもまた逡巡のタネであっただろうから……。

 「…というところまで判ったのは、
  それとなく訊き込みをしていて、
  裏を取ってからだったんですけれど。」

 「訊き込みって…。」

刑事じゃあるまいにと、
勘兵衛や兵庫が眉を寄せるのへ、
七郎次が かわいらしいパンダちゃんの表紙のリングメモを振って見せ、

 「夏休みの宿題にかこつけました。」
 「お題は、ここらの民話の風化現象。」
 「浜茶屋のおじさんとか、お手伝いに来ていた此処のおばさまがたとかに、
  それとなく昔話ってないですかって訊いて、水を向けまして。」

調子のいいお言いようをさえずった彼女らだったが、

 「おや、ヘイさんは民話は苦手と言うてはなかったか?」
 「あ…。////////」

五郎兵衛さんがそんな一言を差し挟んだのへ、
おやおやぁvvと意味深な笑みを頬張って笑ったのが七郎次と久蔵ならば、

 「いやん、こんなタイミングで聞かないでくださいよぉvv」

よく覚えていらしたと、もじもじ照れたひなげしさんだったそうで……。
まま、それはともかく。






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  *長くなって来たので、後半へ続きます。


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